東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)31号 判決
一、本願発明と引用例とは、棒材に軸線方向の圧縮力を加えながら縦軸線に垂直な少なくとも一つの平面に沿つて剪断する点において共通といいることは、当事者剪断に争いがない。そして成立に争いのない甲第四号証の一から四まで(昭和三七年七月一五日共立出版株式会社発行化学大辞典5)によると、圧縮力による素材のひずみは力が小さい間は弾性変形にとどまるが、力がある限度をこえると塑性変形にいたることは、一般的な技術常識であることが認められる。
二、ところで成立に争いのない甲第三号証(引用例)を検討すると、引用例の技術内容についてつぎのように認められる。
(イ)直径に比して厚みの薄い円盤状製品の製造方法であつて、従来の剪断方法では製品が変形を起したり切断面が崩れたりする欠点があつたのを克服し,製品の変形を防止し、平滑良好な切断面を確保し、材料の歩留りを良くするために、強い軸圧縮力を加えながら剪断する方法を採用したものである。
(ロ)そしてこの方法により製品の変形や断面の崩れを起さない良好な切断面を有する薄い円盤状製品を得られる効果がある。
(ハ)実施例としては半円状の開放孔の可動刃による切断装置が示されているが、引用例が装置の発明でないことはいうまでもなく、可動刃の形態は特許請求の範囲に記載されてはいない。しかもその刃(摺動体(3))については「摺動体(3)は…………前面に素材と同半径の半円状の溝(4)を有する」「摺動体(3)の溝(4)に嵌合する同半径の断面半円状の頭部を有する素材受部材(7)を摺動体(3)の前面からその頭部が溝(4)に嵌合するように押し当て…………適宜の手段で摺動体(3)と素材受部材(7)を一体的に固着する。」「棒状体(10)は軸受(9)を通して液圧またはねじ等の適宜の手段で、摺動体(3)に一体的に固着されている素材受部材(7)の前面に押圧されるように強く押しつけられる。」「棒状体(10)を溝(4)を通して素材受部材に強圧した、すなわち棒状体(10)に軸方向の圧縮力が加えられた状態で摺動体(3)を下降させると棒状体(10)は摺動体(3)の下方前面(8)と、軸受(9)の後面との間で剪断力により切断され…………従来の方法に較べて棒状体(10)が素材受部材(7)の強圧されているため製品そのものが変形したり、剪断により切断面が崩れたりすることなく、所望の製品が得られる。」と発明の詳細な説明に記載され、切断中の圧縮力の作用を充分に確保するようにはかつている。
(二)仕上用切削刃(6)は実施例に掲げられているが、特許請求の範囲には記載されてはいない。のみならず、発明の詳細な説明に「摺動体(3)の下方前面(8)と小間隔(a)を有する仕上用切削刃(6)によつて棒状体(10)の切断面を切削することができ、」とあり、これに添付図面を考えあわせると、この仕上用切削刃は円盤状製品自体の剪断に用いるものではなく、その剪断によつて生じ得る切削屑などによつて素材として残された棒状体の端部の切断面に残される傷痕・不整合などを切除するためのものに過ぎない。したがつてこれによつて二回目の切断をするわけではない。
(ホ)以上(イ)から(二)までの事実にてらすと、引用例はその圧縮剪断法としての目的・構成・効果からして、その軸方向に加えられる圧縮力は前記技術常識によれば、弾性変形範囲から塑性変形範囲までをふくみ、装置など実施方法のちがい、製品としての材質・精度にしたがい、相当の範囲にわたつて当然に塑性変形を起させるに充分な強さを前提としているものと考えられる。
三、そこで、成立に争いのない甲第二号証(本願特許公報)により本願発明を検討して引用例の前記内容と対比してみると、つぎのように認められる。
(イ)本願発明は金属棒から薄い金属片を製造する方法であつて、従来の切断・剪断方法では材料の歩留りが悪く、切断面が粗雑で製品が変形を起したり、不均質であつたりする欠点があつたのを克服し、製品の平滑良好な切断面を確保して材料の歩留りを良くするために、塑性変形を起させるに充分な圧縮力を加えながら剪断する方法を採用したものである。
(ロ)そしてこの方法により、きびしい標準規格に適合できて、電気製品や測定装置の構成部品にも使用できるような良好な切断面を備え均質な製品を歩留りよく得られる効果がある。
(ハ)実施例として閉鎖孔の可動刃による切断装置が示されているが、装置の発明ではなく、可動刃の形態は特許請求の範囲には記載されてはいない。発明の詳細な説明には「荷重付加装置6と切断装置5との孔はその棒の大きさと横断面とに厳密に一致することが必要である。」と記載され、閉鎖孔による切断装置として切断中の圧縮力の作用を確保することが必要であることを説明している。しかし同じく「切断装置5の孔または凹所」と記載されているので、この説明は例示的なものであつて、本願発明の実施は可動刃が閉鎖孔・開放孔のいずれによる場合にも可能なことが示されている。
(二)以上(イ)から(ハ)までの事実にてらすと、本願発明の圧縮剪断法は、その軸方向に加えられる圧縮力を塑性変形を起させるのに充分な大きさと限定する点を除いては、その従来技術との対比による発明の目的、剪断における軸線方向に加えられた圧縮力の意義、切断面の平滑と変形防止をはかり、また材料の歩留りをよくする効果、さらにはとりあえず前提としているその実施態様にわたつて、前二項認定の引用例が有する技術内容と実質的に変りがないものと認められる。
四、本願発明では、その特許請求の範囲においても明らかに軸方向に加える圧縮力の強さを塑性変形を起させるのに充分な大きさと限定しているが、引用例においてもその目的とする作用効果から推してむしろ相当程度当然に塑性変形を起させるに充分な強さをも前提としていることは前記二項認定のとおりである。
そして、本願発明と引用例とが圧縮力の強さの限定によつて作用効果などの上で格別の相違をもたらすと認めるに足りる資料はない。してみると、本願発明における軸圧縮力の強さの限定は圧縮剪断法として引用例に対して格別の意味をもつものとはいえない。
以上のとおり、本願発明は引用例とその目的・構成・効果にわたつて同一発明というほかなく、本件審決に原告主張のような事実認定の誤りはないといわねばならない。
五、よつて、原告の本訴請求は失当であるから棄却する。